地方コンサート批評
バーデン市立劇場、オペレッタ「メリー・ウィドー」

1996年4月18日徳島市


徳島で本格的なオペレッタの公演は始めてでないでしょうか。充分な施設もまたホールも無い徳島で、よく本格的なオペレッタが出来たものだと感心してしまいます。この公演は地元の阿波銀行の100周年記念事業の一翼としてなされています、そうでもなければS席1万円ほどで、公演は出来なかったでしょうし、もともと企画も出来なかったでしょう。

バーデン市立劇場の来日パンフをみて、思わず口を手で押さえてしまいました。4月4日より27日までの間に全国各地17カ所で18回の公演です。移動日さえ無い日程の公演が大半と言う、かなりハードなスケジュールです。どっかの超有名劇場の公演とはだいぶ違いますね。

演奏の方は、久しぶりのオペレッタを私は充分満喫しました。舞台がはねてからの帰り、ヴィリアの歌を口ずさむ人が多くいました。それでも分かるとおり、実に楽しい公演でした。演奏中は気になったところがとても多かったのですが、結局終わってみれば凄く楽しかったので全て佳しとしませう。こんな公演、この地ではあまり見れないのですから。

全体の演出は、オーケストラがやっとと言う狭い舞台を巧みに生かした演出で、悪くは無かったと思います。(まぁ狭いのでこれ以上はどうにも出来ないでしょう)

舞台では特にバレーがとても良かったと思います。この公演が楽しかったのは、ひとえに舞踏陣がとても優れていたからだと思います。出演者は多くは無いのですが、舞台の狭さが逆に幸いして密度のあるより華やかな舞台が展開され、実に見ていて楽しかったです。

それに比べて声楽陣は最初はかなり不満がつのりました。最初からまぁまぁ聴けたのは伯爵役のハルシャニーだけで、ハンナ役のヴェルナーは明らかに声に張りが無く高域がかすれがちでした。聞き所の「ヴィリアの歌」はかなり貧相に聞こえました。

これは、はっきり言って疲れていたのだと思います。これだけあちらこちら毎日移動してばかりの公演では致し方ないかと、ついつい同情さえしてしまいます。でもヴィリアの歌が終わって、オペレッタが佳境に入り始めると一同俄然調子が良くなり、最後はとても楽しめたのは、さすが捉え所を知っている、と言う所ですね。

その他の歌手は、主役2人以外はかなり落ちる感じです。まぁ、あまり重要では無いですけれどね。でも後半の舞台の楽しさは、見事な踊りと共に格別です。いかにも「ウィーン」っぽくて良かったです。たとえ歌がよりうまくても、日本人がやったのではこうはいかないでしょうね。

演奏自体とは関係の無いことですが、聴衆のレヴェルは「かなり劣悪」です。企業が主催していますので、関係筋に流れたチケットも多いらしく、自費でチケットを買ったのではなく、「もらったから」来た人が多いのでしょう。

公演中に隣同士で喋るのなんて普通です。最初は注意しようと思ったのですが、あまりあちらこちらで声がしますので、どうしようも有りませんでした。カメラのシャッター音も2、3カ所で当たり前の様にしています。「ばかやろぉ!、歌謡コンサートじゃないんだぜ!!」と手が震えました。

まぁ私語も前半はひどかったのですが、後半盛り上がって来ると無くなり、舞台に集中していたみたいです。

最初に書いたとおり、大半が毎日移動、毎日公演と言う日程です。例えば、16日に福山で、17日に松山で、18日にここ徳島で公演です。ソリストならば楽でしょうが、装置が大がかりになるオペレッタの公演では、とても大変だったと思います。

演奏者もそうですが、裏方でもこの公演には苦労が多かったと思います(特に徳島の様なろくなコンサート会場の無い所では)。関係皆さんに感謝せざるをえませんね。